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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)903号 判決 1955年1月28日

控訴人(原告) 国

訴訟代理人 岡本元夫 外三名

被控訴人(被告) 日本労働組合総評議会

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一、訴の変更前における当事者双方の申立及び主張

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人国に対し控訴人が毎年五月一日午前十時から午後一時まで参加人員二十五万人以下で皇居外苑全域のうち立入禁止区域を除いた残部を中央メーデー挙行のため使用する権利を有することを確認する。控訴人が昭和二十九年二月二十日附でした昭和二十九年五月一日中央メーデーのための皇居外苑使用許可申請に対して被控訴人厚生大臣が同年三月十六日になした不許可処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人国及び厚生大臣指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

右のほか、当事者双方の事実上の主張は、原判決の事実の部に記載しあるとおりであるから、ここにこれを引用する。

第二、訴の変更に関する当事者双方の申立及び主張

控訴代理人は、昭和二十九年十月五日午前十時の本件口頭弁論期月において、被控訴人国に対する皇居外苑使用権確認請求は従前のとおりであるが、一被控訴人厚生大臣に対する前記不許可処分取消請求については、後記のとおり請求の趣旨及び原因を変更し、かつ被控訴人厚生大臣を被控訴人国と変更すると申立て、

「被控訴人国は控訴人に対し金十万円及びこれに対する訴変更申立書送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人国の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、被控訴人厚生大臣のなした前記不許可処分が違法であることは従前主張したとおりである。(故に原判決の事実の部に記載しある被控訴人厚生大臣に対する控訴人の請求原因事実をここに引用する。)

二、厚生大臣の違法な行政処分のため控訴人が物心両面にわたつて蒙つた損害は極めて多大であつて見積り難いが、さしあたり次の損害の賠償を請求する。すなわち控訴人は本件不許可処分のためにやむなく明治神宮外苑を借用してメーデーを挙行した。皇居外苑は国民公園で無料であるが、神宮外苑は私有財産で無料で使えないから、控訴人は当日神宮外苑当局に対して、金十万円の使用料を支払つた。これは厚生大臣の違法な不許可処分によつて控訴人が蒙つた損害で、この損害は国の公権力の行使にあたる公務員たる厚生大臣がその職務を行うについて違法に控訴人に加えたものである。

三、厚生大臣は、本件不許可処分が違法であることを知つていたか、少くとも相当の注意を払えば知ることができた筈である。すなわち、昭和二十七年度メーデーについて、東京地方裁判所民事第二都は控訴人の皇居外苑使用申請に対する厚生大臣の不許可処分を違法として取消し(昭和二七年(行)第二二号同年四月二八日言渡判決)、最高裁判所大法廷は傍論としてではあるが厚生大臣の不許可処分が自由裁量処分でないことを明示し、ただ同年度の使用申請が参加人員約五十万人、使用時間午前九時から午後五時までである点から、参加人員が収容能力約二十五万人をはるかに上廻り、使用時間が長きに失するとして右不許可処分を適法としている(昭和二七年(オ)第一一五〇号昭和二八年一二月二三日言渡判決)。従つてこの最高裁判所の判断によると、昭和二十九年メーデーのように参加人員約二十万人、使用時間午前十時から午後一時までである場合には、不許可処分は違法であるとの結論を容易に導き出すことができる。

更に昭和二十八年度メーデーについても、東東地方裁判所民事第三部は控訴人の皇居外苑使用申請に対する厚生大臣の不許可処分を明白に違法と断じている(昭和二八年(行)第二四号同年四月二七日言渡判決)。なお昭和二十九年度メーデーに関する本件不許可処分後にも、東京高等裁判所第七民事部は、昭和二十八年度メーデーに関して厚生大臣の不許可処分が違法である旨明白に判断している(昭和二八年(ネ)第七九六号昭和二九年三月一八日言渡判決)。厚生大臣は前記各裁判所の判断を知らない筈はないから、厚生大臣が本件不許可処分をするについて、少くとも過失があつたことは明白である。

四、控訴人は、昭和二十九年度メーデーのための皇居外苑使用申請に対する厚生大臣の不許可処分を違法としてその取消を訴求していたのであるが、判決が確定しないうちに昭和二十九年五月一日が経過して取消の利益を失つたので、訴を変更して違法な不許可処分によつて控訴人の蒙つた損害の賠償を求めるのであり、請求の基礎は全く同一である。右訴の変更に伴つて、相手方たるべきものを厚生大臣から国に変更しなければならないが右当事者の変更は、本件のような場合においては、次の理由によつて民事訴訟法上適法である。

(1)  行政処分をするのは行政庁であるが、それは行政庁が国の機関としてするのである。これによつて生ずる法律関係の主体は行政庁ではなく、当然国である。従つて行政処分の取消を求める訴においても国を相手方とするのが理論的である。

(2)  ところが、行政事件訴訟特例法第三条は、行政処分の取消または変更を求める訴は他の法律に特別の定のある場合を除いて、当該処分をした行政庁を被告とすべき旨定めている。この理由は、このような訴訟については行政処分をした行政庁が当面の責任者であるから、これに訴訟を追行させることが証拠の蒐集、資料の提出等に最も便宜適切であるという専ら便宜的考慮に基くのである。

(3)  すなわち、行政庁を被告とすることは、いわば形式的に当事者とするのであつて、実質的当事者はあくまで国である。そうであるからこそ、特例法は第七条で被告たる行政庁を変えることを許し、第一二条で確定判決が関係行政庁を拘束することを定め、また「国の利害に関係ある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」は、第六条で行政庁はこのような訴訟について法務大臣の指揮を受けるものとしているのである。

(4)  以上を要するに、行政庁を被告とするのも国を被告とするのも実質的の訴訟主体はともに国でなんら異ならない。従つて控訴人が厚生大臣を相手方としていたのをやめて国を相手方とすることは、実質的には当事者を変更するわけでないから、本件の場合当事者の変更は適法といわねばならない(東京高等裁判所第七民事部昭和二八年(ネ)第七九六号昭和二九年三月一八日言渡判決参照)。

被控訴人厚生大臣指定代理人は、訴の変更申立に対し、申立却下の判決を求め、その理由として、控訴人は原審及び当審において厚生大臣を相手方として同大臣のした皇居外苑使用不許可処分の取消を求めていたところ、右不許可処分により損害を蒙つたと主張して、その賠償請求の訴に変更するとともに被控訴人を厚生大臣から国に変更する旨の申立をなし、これによつて新たに国に対して損害賠償の請求をする。しかし右のような被控訴人の変更は許されないから、その変更の申立という方法によつては本件を国に対する国家賠償請求の訴にすることはできない。

本件被控訴人たる当事者の変更の許されない理由は、次のとおりである。

一、本件被控訴人の変更の申立には、行政事件訴訟特例法第七条第一項本文の規定はは、適用されない。控訴人は、訴を国家賠償請求の訴に変更し、その結果右訴において厚生大臣を被控訴人とすることは特例法第七条にいう被告を誤つたことになるから、同条第一項本文の規定によつて被控訴人を国に変更するというにある。しかし特例法第七条の規定が設けられた理由は行政処分の取消または変更を求める訴にあつては、被告適格を有する行政庁が特定されている(同法第三条)ところ、訴を提起するに際し、被告とすべき行政庁が不明確等のため被告を誤つた場合には、改めて被告適格を有する行政庁を被告として新訴を提起し直さなければならないとするときは、一方行政処分の取消を求める訴については、出訴期間が制限されている(同法第五条)から、すでに出訴期間を経過し、結局裁判による救済を得られないという事例の起り得ることを顧慮し、これを救済せんがためである。従つて右特例法第七条第一項本文の規定によつて被告の変更の許されるのは、規定の文言から明らかなように、新訴旧訴とも「第二条の訴」すなわち行政処分の取消または変更を求める訴である場合に限るのである。しかるに本件国家賠償請求の訴は、行政処分の取消または変更を求める訴でないことは勿論、私法上の権利関件に関する通常の民事訴訟であつて、特例法の対照である公法上の権利関係に関する訴訟でさえないのであるから、本件国家賠償請求の訴については、特例法第七条第一項本文の規定が適用または類推適用される余地はない。のみならず、特例法第七条第一項本文の規定は、「被告とすべき行政庁を誤つたとき」にのみ適用され、右規定によつては、被告を他の行政庁に変更することのみが許されるのであつて、本件被控訴人変更申立のように行政庁以外のものである国に変更することは到底許されない。

二、控訴人は被告を誤つたことについて故意または重大な過失がある。

仮りに本件国家賠償請求の訴において、控訴人主張のように被控訴人(被告)の変更が本来許さるべきものであるとしても、控訴人が同一書面をもつて右訴の変更及び被控訴人の変更の由立をしている事実に徴すれば、控訴人は自ら請求を変更することによつて被告を誤つたことになる結果を故意に招来したものというべきであり、従つて被告を誤つたことについて故意または少くとも重大な過失があつたものというべきであり、特例法第七条第一項但書に該当するので許されない。

三、控訴人は、行政庁を被告とするのも、国を被告とするのも、実質的の訴訟主体はともに国でなんら異らないから、厚生大臣を相手方としていたのをやめて国を相手方とすることは、実質的には当事者を変更するものではないと主張する。なるほど行政庁の行政行為の主体は国であるから、その行為の取消変更を求める訴の当事者は理論上国であるが、この種の訴訟の特質からして、特例法は訴訟手続上においては処分行政庁を被告とするのが適当であるとして、政策上特に行政庁に当事者能力を与えたのである。従つてこの種の訴訟では、行政庁は訴訟法上国とは別に訴訟当事者としての地位と能力を有するのである。しかして訴訟手続上当事者の観念はあくまで形式的に取扱うべきであつて、行政行為による実体上の権利義務が国に帰属し、行政庁は国の機関に過ぎないからといつて、行政庁と国とを同一当事者なりとすることは、特例法の制度を無視するものであつて、到底許されない。よつて厚生大臣のした行政行為の取消を求める訴訟の被告は特例法第三条によりあくまで厚生大臣であつて、国ではない。されば本訴の被告の厚生大臣を国にすることは、当事者の変更でないということはできないと述べた。

被控訴人国指定代理人は「控訴人の被控訴人国に対する本件訴を却下する。控訴人と被控訴人国との間に生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、答弁として被控訴人厚生大臣と同様に述べ、なお控訴人が神宮外苑当局に対し金十万円の使用料を支払つた事実は認めると述べた。

<立証 省略>

理由

第一、控訴人が別紙目録記載の労働組合及び職員組合によつて組織されている法人にあらざる社団であつて、議長を代表者と定めているものであること、皇居外苑が国有財産法第三条第二項第二号にいう公共用財産に属する国民公園であり、厚生大臣がその管理を所管し、これが管理について国民公園管理規則を制定していること、控訴人が昭和二十九年二月二十日附で厚生大臣に対し同年五月一日中央メーデー挙行のため皇居外苑使用許可申請をしたのに対して、厚生大臣が同年三月十六日これを許可しない旨決定して同日控訴人に通知して来たことは当事者間に争がない。

第二、訴の変更は適法である。

控訴人は原審以来、厚生大臣のなした右の不許可処分は違法な行政処分であるとして、その取消を求めていたのであるが、当審においては右の不許可処分の違法なことをそのまま主張し、且つその取消を求めることは、昭和二十九年五月一日が経過したので、実益を失つたから、これをやめ、右の不許可処分によつて損害を受けたとの事実主張をつけ加えて、その賠償を求めるというのである。これは訴の変更であることは明らかであるが、民事訴訟法第二三二条第一項にいうところの請求の基礎については、前後全く同一であると認めるのが相当であり、記録によれば、右変更によつて著しく訴訟手続を遅滞させるものとも認められないから、右変更は民事訴訟法上許されている請求及び請求の原因の変更というべきである。

なお控訴人は右変更と同時にこれまでの相手方当事者たる厚生大臣を国に変えようとするのであるから、かかる変更が法律上許されるか否かを考えてみる。

民事訴訟法においては、訴訟物たる権利関係の承継のあつた場合その他特に法律に定のある場合のほか、当事者を変更することは許されず、したがつて当事者の交替による訴の変更ということはあり得ないところである。行政事件訴訟特例法第七条は、行政処分の取消または変更を求める訴において、原告が、被告とすべき行政庁をまちがつた場合に、訴訟の係属中被告を他の行政庁に変更することができる旨を定めているが、これは、そのまま本件の場合に適用すべからざることは明白である。

しかし、特例法が、その第三条において、行政処分の取消または変更を求める訴は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、その処分をした行政庁を被告とすべき旨を定めている所以を考えるに、右の訴訟については、目的たる行政処分をした行政庁が当面の責任者であるところから、これを当事者として訴訟を担当、追行させることが証拠の蒐集、資料の提出その他訴訟の追行上必要な行為をするについて最も適切、便宜であるという考慮から出ている。けだし、行政処分をするのは行政庁であるけれども、それはもとより行政庁が国の機関としてするのであつて、これによつて生ずる法律関係の主体は行政庁ではなく、当然常に国であることはいうまでもないところである。したがつて行政処分の取消または変更を求める訴においては、その処分による法律関係の主体たる国を相手方とすることこそ、むしろ理論にはかなうものであるからである。されば行政庁を被告とすることはいわば便宜上形式的に当事者とするのであつて、国の行政庁をとらえることによつて実質的には国を当事者としているのである。だからこそ、特例法は、その第七条において、原則として被告たる行政庁を変えることを許し、第一二条では、確定判決が関係行政庁を拘束することを定めておるのであり、また行政庁はかかる訴訟について法務大臣の指揮を受けるものとされるところ(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律第六条)その法務大臣は、そもそも国を当事者とする訴訟については、国を代表し、訴訟を実施するものなのである。これ、畢竟行政庁を被告とし、或は国を被告とするといつても、実質上の訴訟主体はともに国であることにおいて異るところのないことを示すものというべく、その関係は全然人格を別にする当事者甲乙の二者と同一にみることはできない。

さすれば、控訴人が、これまで厚生大臣を相手方としていたのをやめて国を相手方にしようというのは、実質的には当事者を変更するわけではないから、請求及び請求の原因の変更と同時に相手方当事者を国にしようというならば、これを許すべきものであり、右と異る見解に立脚する被控訴人個及び厚生大臣の主張は採用することができない。

右の意味において、厚生大臣は、当然に、本件訴訟における被控訴人(被告)たる地位を失うことになるわけである。

第三、控訴人の皇居外苑使用権確認の訴と国家賠償請求の訴とを併合して審理裁判するのは適法である。

控訴人の被控訴人国に対する使用権確認の訴と厚生大臣に対する行政処分取消の訴とが併合の要件を具備していることは、原判決の判示したとおりであり(原判決書十三枚表二行目から同裏末行までを引用する)、右取消の訴を変更した本件損害賠償の訴が右確認の訴と併合して審理裁判し得られることはいうをまたない。

第四、控訴人の本件使用権確認請求は理由がない。

右の理由は原判決の説示したとおりであるから、ここに原判決の理由中この点に関する部分(原判決書十四枚計表七行目の「成立に争のない」以下同十七枚目表九行目まで)を引用する。

第五、本件不許可処分による損害について、国の賠償責任は認められない。控訴人は、本件不許可処分は違法であり、これがために、やむなく明治神宮外苑を借用してメーデーを挙行したところ、皇居外苑は国民公園で無料であるが、神宮外苑は私有財産で無料で使えないので、控訴人は当日神宮外苑当局に対し、苑地使用料金十万円を支払つた。これは厚生大臣の右不許可処分により控訴人に生じた損害であつて、この損害は国の公権力の行使に当る公務員たる厚生大臣が、その職務を行うについて故意または過失により違法に控訴人に加えたものであるから、国は国家賠償法により、賠償すべきものであると主張する。

思うに、国又は公共団体の公務員が公権力を行使するに当つては、法令の定めるところに従つて適正にこれをなすべきことが一般に要請せられているのであるが、その公権力の行使の適否いかんは終局的には裁判所の判断によつて決せられるところであり、公権力の行使に当る公務員がその違法なことを知りつつ行う場合は格別、自らは適法なりとの判断に基いてしたところが、裁判所の判断においては違法とされる場合のあることは明らかであつて、かかる場合にはその判断について過失があるか否かが問題となるのであるが、もしその公権力の行使に当つて公務員が尽すべき注意を尽し、かもなおその判断において、裁判所の見解た異るものがあつたとすれば、これをしもなお過失とすることは失当というべく、したがつて単に客観的に違法行為がなされたということ自体によつて直ちに故意又は過失あるものと推断すべきではない。

いま本件についてみるに、成立に争わない乙第三号証の一、二原審証人森本潔の証言、同証言により原本の存在並びにその成立を認め得る乙第一号証の一、二及びその成立を認め得る同第二号証の一、成立に争のない乙第二号証の二を綜合すれば、厚生大臣は昭和二十五年六月以降は政治的又は宗教的目的を有すると認められる集会及び示威運動については皇居外苑の使用を許可しないという方針を定め、さらに昭和二十七年三月十一日の閣議了解をもつて政治的又は宗教的目的を有しないと認められる集会、行進等であつて、その使用が小区域且つ短時間に限るもの、及び国家的性質をもつ集会、行進その他の催物、行事にしていずれも皇居外苑を使用することが適当と認められるもの以外は原則として許可しないことを定め、その後昭和二十七年五月一日の騒擾事件発生後においては、原則として国家的行事以外のものには許可しないことを定め、右方針に基き皇居外苑の使用を許可して来たものであつて、控訴人の本件許可申請についても、この取扱に基き、且つ皇居外苑の特性、国民公園たるの趣旨、その規摸、施設、態様等諸般の情況を勘案して、控訴人申請の使用は皇居外苑の保存運用に支障あるものとの判断に到達し、これに基き不許可処分をしたものであることが窺われる。この判断は結果において原裁判所の容れるところとならず、原裁判所は右不許可処分を管理権の適正な運用を誤つた違法な処分であると判断したのであるが、その判断の当否はしばらく措き、この判断は極めて徴妙であつて、到底一見明瞭のものとはいい得ない。控訴人は昭和二十七年度においてもメーデー挙行のため厚生大臣に皇居外苑の使用許可を申請し、その不許可処分に対し取消の訴訟を提起し、第一審たる東京地方裁判所は右不許可処分は違法であるとしてこれを取消したのに対し、この事件の控訴審たる東京高等裁判所はその判決当時においてすでに右行政処分取消の利益なきものとしてその請求を棄却し、その上告審た吾最高裁判所においては右控訴審の結論を支持するとともに、傍論としてではあるが、右不許可処分が違法でない旨を判示した(最高裁判所昭和二七年(オ)第一一五〇号同二八年一二月二三日大法廷判決参照)ことは当裁判所に顕著である。右昭和二十七年度の使用許可申請と本件のそれとは参加予定人員の多少、使用申請区域の広狭及び使用時間の長短等に差異あるものであるが、ほぼ同種の事案に対して裁判所においても積極消極の説に分れたところからすれば、その判断の帰趨はまことに微妙であるといわなければならない、近き将来ある程度この種の事案に対する裁判所の判断が重ねられて、その適否の分れるところが明確化され、ここに一の客観的基準が確立するに至るならば或は厚生大臣の判断の誤り自体が直ちにその故意過失を推断せしめるものとして差支えないであろうが、控訴人引用の判例の段階においては、これをあえてするのは早計の譏を免れない。

さすれば、厚生大臣はその判断において故意は勿論過失あるものとは認め得ないから、右違法処分により控訴人が被つた前記十万円の損害について、国はこれを賠償する義務はないのである。

第六、以上の次第で控訴人が被控訴人国に対し皇居外苑使用権の確認及び右損害賠償を求める請求は、いずれも爾余の判断をなすまでもなく失当であるから、これを棄却すべきである。したがつて原判決中被控訴人国との間でなされた部分は相当であつて、この部分に対する控訴は理由がないが、訴変更前の被控訴人厚生大臣との間でなされた部分は取消すべきものである。

よつて原判決を変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川昌勝 村松俊夫 中村匡三)

目録<省略>

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